2007年10月05日

刑事コロンボ 忘れられたスター

(思いっきりネタバレで書くので、悪しからず。)

ゲスト・スターは、ジャネット・リー。ヒッチコックの「サイコ」が有名だが、なぜかナポレオン・ソロの映画版にも出ていたのも妙に印象的、と淀川長治調ではじめてみた。
コロンボの中では異色作である。殺人推理ドラマではなく、完全に「映画」だ。以前見たときも、すごくよかった記憶があるのだが、こうして改めてみるとあまりに出来がいいので驚いた。「好きな映画100本」に加えたいくらいだ。
若き日にミュージカル・ムービースターとして一世を風靡した女優が、老いてから再デビューを目指す。しかし、夫がスポンサーになるのを拒否して、自殺に偽装して殺めてしまう。コロンボは、例によって名推理で、真犯人が彼女だと気づく。
そして、彼女の自宅に昔の映画の映写会に招かれた際に、彼女を逮捕しようとする。その場には、彼女の、若き日のパートナーでもあり、ずっと彼女にひそかに思いを寄せ続けていた有名男優も同席する。コロンボが珍しくタキシードの正装で登場し、彼女のいないところで、男優に彼女が真犯人である根拠を説明して、男優も納得する。
ただ、実は彼女は脳腫瘍をわずらっていて、夫もそれを知っていて、仕事をすると危険なためとめていたのだ。その愛情を知らずに彼女が殺人を犯したことを知って男優は絶句する。しかも、病気の付随症状として、記憶喪失症が起こっていて、彼女自身殺人を犯したことを忘れてしまっている可能性が高い。なおかつ余命は長くて二ヶ月である。
それでも、コロンボは彼女に事情を説明しようとするが、その場でとっさに男優が良人を殺したのだと嘘の自白をする。彼女は、勿論全て忘れてしまっていて驚く。コロンボは、彼女のいないところで、男優に「あなたの自白などすぐひっくり返されますよ」と告げる。男優は答える、「分かっている。しかし、少なくとも二ヶ月は持ちこたえてみせる。」コロンボもなんともいえない表情をして「そう・・、それがいい」と返す。最後は、彼女が、映画中の若き日の自分を、恍惚とした表情で見つめるシーンで終わる。
抜群に良く出来た脚本である。また、ジャネット・リーの演技がいいのだ。年老いて容貌も変わったが、今なお十分に魅力的で、かつての栄光が忘れられない女優になりきっている。彼女を心底愛している感じを出している老いた男優もいい。そこら辺の微妙な心模様が、若い時にはそれほど分からなかったのだが、ある程度年取って見ると、実に痛いくらいによく理解できて感情移入できるのだ。正直に言うが、最後の方のシーンでは、涙が止まらなくなった(笑)。
歳をとった女優の、美しくさ、気高さ、純真さ、子供っぽさ、わがままさ、エゴの強さ、あわれさというのは、男の深層心理に訴えかけてやまない何かがある。男にとっては、一種の「オンナ」に対する屈折した理想イメージのひとつなのだ。ユング的な強烈な女性の一元型だと思うし、だからこれだけ心揺さぶられるものがあるのだと思う。
ジャネット・リーは、役者としては「サイコ」などより、はるかにこの作品がいいと思う。バーグマンが、かつてとは変わり果てた姿で、といっても十分に美しいまま、ベルイマンの「秋のソナタ」に出ていたのも想起する。あの映画でのバーグマンも、やはり本物の女優としては、かつての「美しき」バーグマンより全然良かったと思う。
若き日の映画のテーマ・ミュージックとして使われる「walking my baby」の、どうしようもない明るさが効果的すぎる。
posted by rukert | Comment(0) | TrackBack(1) | テレビ
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忘れられたスター
Excerpt: 今回のゲストはジャネット・リー。当時の実年齢よりも老けた役をやっていますが、その「老け加減」と「残された美貌」のバランスが絶妙でした。まさに、タイトル通りの演出でしたね。
Weblog: 映鍵(ei_ken)
Tracked: 2010-05-10 21:08
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