2007年10月04日

ブラッド・メルドー「アート・オブ・ザ・トリオ2」の本人執筆のライナー・ノートより

ブラッド・メルドーは、今をときめくジャズピアニストである。いきなり、ライナーからの大量引用を。

「(音楽は)表現方法であるのに、あくまで抽象の域を出ない。言語であるのに、言語がない。自治を持ち、その外側に照らす必要はないのに、外側を取り込んでいる。部分でありながら、全体を内包する。いつ何時にも、最初からそれを作り直すことが出来る。音楽は二者択一的なあり方を超越している。」
「ベートーヴェンはディアベリという、好事家の楽譜屋の書いた恐ろしくも無味乾燥なテーマから、19世紀に書かれたもっとも威厳ある一連のあの変奏曲を編み出した。チャーリー・パーカーは、ガーシュインの「アイ・ガット・リズムの」陳腐なほどシンプルなハーモニー、メロディ構成をとって来、まるで一大宣言のごとく、新しいアプローチを定義した。」
「音楽の中にある種の系譜が存在するという考え方に権力を与えている。そういう系譜は存在する。でも、系譜が音楽を決定するのではなく、音楽が系譜を決定するんだ。音楽がスタイルを決める、理想的にはね。」
「ショー・チューンだろうが、シェーンベルグだろうが、コンポーザーとインプロバイザーの基本の原動力は、なにか「新しいもの」を発見することではなかったんだ。あらゆる創造的な体験の中で君がやっていることは全て、他の人が使い捨てた同じ元素財を自分のニーズに合わせて融合することなんだ。昔からいつもあった同じものをね。」
「どうして後世の人は、ベートーヴェンやチャーリー・パーカーの作ったものを、いまだに褒め称えるのかね?何がそれらに不朽の資質を与えているのだろう?その「新しさ」ではなくてね。いや違うな、それらが何かとてつもなく古いものを肯定して謳っているんだよ。地球の存在くらい古い、不滅のもの。「音楽に罪はない」んだからさ。」

メルドーは、二人の架空の対談者を作り出して、語り合わせている。それらの中からの引用である。あえて、分かりやすい部分ばかり引用したが、原文は、かなり韜晦的な書き方をしている。無理もない。これだけ、「分かりやすすぎる」ことを結局語ってしまっているからだ。
しかし、音楽を愛するある種の人間からすれば、(まあ私もその一人だと勝手に言ってしまおう)、こういう余りに自明すぎることが、あまりに理解されなさ過ぎている。特に、メルドーが扱っている、クラシックとジャズの「聴き手」には。
私は両方好きなのだが、下手すると嫌味なスノッブだと思われるんじゃないかと心配ではある(笑)。でも、メルドーみたいなミュージシャンが、こういうことをはっきり言ってくれると、まあ心強いわけだ。
クラシックにおいては、音楽形式の進化にのみ興味があり、ジャズにおいては、コード、モードからフリーといったスタイルの変遷を至上とする聴き手がいる。一方で、そういうのは一切無視して、自分の信仰する「教祖」のみを溺愛するカルト信者が存在する。
メルドーは、自分はどっちでもないぞといいたいわけだ。はっきり言って、相当自信がないとこんなことはいえない。ベートーヴェン、チャーリー・パーカー、ブラッド・メルドーと、並べるくらいの自信がないと。皮肉を言っているのではない。音楽を演奏するというのは、本来そういう行為なのだ。当然、本物の天才はごく一握りだ。しかし、メルドーの言う「地球の存在くらい古い、不滅のもの」に対する感覚さえあれば、誰にも開かれた世界である。それが、他の全ての芸術形式とは異なる音楽のすばらしいところである。
話は、音楽をクリエートする側に限らない。音楽を聴くのにも、「専門的」にはピンからキリまでのレベルが存在するのは事実だろう。しかし、「古い不滅のもの」に対する感覚がある聴き手は、完全に平等である。むしろ、つまらぬ理屈や、主観的嗜好に縛られて、そういうものを実感できなくなっている「専門的」聴き手こそ、「音楽」を知らない不幸な存在である。音楽は、全ての聴き手に、あっけに取られるほど、完全に開かれている。
とか言っても、結局はつまらない、理屈だね。
ということで、さあ、ブラッド・メルドーを聴いてみよう。彼の言うところの「ショー・チューン」、ジャズのスタンダードから、コルトレーンからオリジナルまで。
あらゆる「素材」が用いられている。メルドーにとっては、どれもディアべりなのだ。といっても、どれも、「ディアべりの無味乾燥なテーマ」よりは、はるかに魅力的なのだけれども、
posted by rukert | Comment(0) | TrackBack(1) | ジャズ
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