2007年08月08日

クナのパルジファル

なんなんだ、この暑さは。頭がおかしくなりそうだ。だからというわけではないのだが、昨日、クナッパーツブッシュのバイロイトのパルジファルを、ふとかけてみたら、最後まで聴き通してしまった。なんせ、四時間だ。馬鹿なことした。今日は一日中、眠かった。
ワグナーというのは、本当に厄介だ。まず、あの音楽を理解するだけでも大変だ。あのピエール・ブーレーズが、バイロイトでリングを振った際に、ノイローゼ気味になったというくらいだ。どシロウトに、本当にきちんと理解するのなど、到底無理。しかも、あの碩学の丸山真男でも歯が立たなかったという、古いドイツ語だ。かといって、歌詞カード片手に、四時間聞いているのも、あまりにきつい苦行だ。
さらに、オペラにこめられた思想。神話学から、宗教学まで、精通している人間でなけりゃ、本当には理解できないだろう。
ということで、クナのパルジファルについても、本来、安易に語ったりしてはいけない。でも、暑すぎるし(関係ないか)、別に誰にも迷惑かけるわけじゃなし、大風呂敷広げちゃうか。
パルジファルの音楽については、吉田秀和さんがこんなことを言っている。
「それら全てを覆い包んでいる音楽!!ここでも、私は、自分がよく分かったなどとはいえない。いや、今でも、私は、そういうまい。ことに、私にとって躓きの石は、全曲を覆う、あの疲れたような、緊張に乏しいリズムとダイナミックである。(中略)私には、その足取りの中に、このころすでに芸術の歴史を通じてももっとも偉大な天才に数えるべき大家の骨の髄までくいいっていたところの疲労を感ぜずにはいられないのだ。」
吉田秀和さんの耳に何が聞こえているか、私などには想像することすら不可能だ。ただ、正直言って、私にはあの聖杯の動機など、どうも本当には神聖な音楽には聞こえないのだ。どこかに感傷とか通俗がひそかに混じったような音。リングの方の音楽はワグナーらしい音楽として納得できる。しかし、パルジファルについては、神聖そのものではなく、神聖にあこがれる音楽のように聞こえてしまう。バッハや、ブルックナーの後期の交響曲は、私にとっては、本当に神聖な音楽である。(もっともブルックナーについても、カトリックの:敬虔な音楽には聞こえないのだが、まあその話は今はいい。)パルジファルは、どうしようもなく、地上の生に引き止められている人間が、神聖なものに無限の憧れを抱きつつ書いた音楽とでもいうか。キリスト教への帰依というのが、素直には信じられない音楽だ。
しかし、そういいつつ、クナのこの演奏を聴いていると、結局恐ろしく感動してしまうのも事実なのだが。ワグナーという、とんでもない俗性と聖性が共存する人物が最後に書いたこの音楽は、いったいなんだったのだろう。
また、ここで扱われている聖杯伝説。これまた、ちゃんとした宗教的知識など全くないままに書いているのだが、キリスト教の中でも異端の匂いがプンプンする。一応パルジファルが題名だが、ワグナー自身は限りなくアムフォルタスなのだと思う。深く傷を負った救いのないアムフォルタスが、パルジファルに貫かれることで救済される。ワグナー自身というのは、全ての毒や属性を背負った人間であって、そういうアムフォルタス的な人間が、救済を願った書いた音楽である。(段々断定調になってきたぞ  笑)パルジファルが、本当には神聖な音楽ではないのに、もし聞くものの心を深く揺さぶって止まないとしたら、アムフォルタスの負った傷が知悉する人間が、余すところなくそれを音に形象化するのに成功しているからだと思う。現代人が心に負った傷や弱点を、いやというほど内省させられるから、この音楽は偉大なのであって、音楽自体が神聖なのではない。
といった、わけの分からない妄想が心に浮かびつつ聞いていた。
クナのことを書くのを忘れた。伝記などを読むととんでもないオヤジだ。しかし、ただの善人ではないから、パルジファルをこれだけふれるのだろう。一方、大学の論文がクンドリーについてだったというわけの分からない人間だ。とにかく、ここでは普通でない音が鳴り続けている。辛抱強い職人であり、常に即興性が息づいており、決して音が観念的にならず、なおかつ音が限りなく深遠である。生来のワグナー振りとしか言いようがない。
ヒットラーはクナが嫌いだったそうである。「軍楽隊長」とか呼んでいたらしい。そりゃ、そうだろう。ヒットラーのような、とことん観念的で現実否認の人間には、クナの深い生命肯定などわかりっこないさ。
posted by rukert | Comment(2) | TrackBack(1) | クラシック
この記事へのコメント
大好きなエピソード。
無謀にもクナにこんな質問をした人が居たそうで。
「トスカニーニは暗譜して指揮するのに、
「なぜあなたはしないのですか?
返ってきた答えは、
「わしは楽譜が読めるからな。」
Posted by maro_chronicon
トスカニーニは、楽譜のシミの位置まで覚えていたそうですね。将棋やチェス向きです。クナにも暴君ぶりでは負けないトスカニーニの方で好きなエピソード。ある時オペラで、出来が悪くオカンムリだった際、その場にいた馬がみごとな一物を排出した。トスカニーニ曰く、
「この馬は今のわしの気持ちが実によく分かっておる。」
Posted by rukert
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