2012年09月22日

黒澤明「七人の侍」



最近、「大系 黒澤明」全四巻を入手した。黒澤映画について本人関係者の発言をすべた集めた大変充実した資料本である。
私は映画本をほとんど読まない。先入観なしに映画を見ればそれで十分でその舞台裏を下手に知ってしまうとかえって自由に鑑賞できなくなると思うから。
しかし、今回黒澤映画をまとめて見て黒澤という人間に興味がわいたのである。この「七人の侍」についても、詳細な資料が載っている。
この映画は村の戦闘シーンは実に大掛かりで誰でも撮影が大変だったのが分かる。当時の時代劇の概念を根本的に変えた作品で、勿論今でも(むしろ今となっては)これだけ大変なものをつくるのは大変だろう。
それについても、「大系 黒澤明」に撮影スタッフの詳細な証言がある。本当に大変だったようである。と同時にこんな形で映画が撮れていた時代を羨ましく思う。
この映画の志村喬は本当に神様のようだ。彼が登場して、髪を剃って坊さんのふりをして子供を人質にとった男を倒す所のかっこいいこと。
この島田勘兵衛は難しい役で、侍としての位は高くないが技量や人間性では傑出している。普段は謙虚で普通な感じだが、ここというところでは威厳を示す。志村喬がそういう感じを完璧に表現しているのだが、黒澤はそういうキャラクターつくりに立ち居振る舞いから細かく指示を出したそうである。黒澤の演出と志村のそれを完全に自分のものとして消化する役者力の共同作業の結果なのだろう。
宮口精二の久蔵は当初三船敏郎の予定だったが、菊千代という役が新たに出来て宮口にわりふられたという。大変カッコいい役である。
最初の登場の仕方だと、ちょっとエゴイストで何かトラブルを起こしそうだ。特に勝四郎と志乃の逢引を目撃するシーンは、何か起こしそうでドキドキするのだが何も起こらず実は立派な人間であることが段々分かってくる。ちょっと意表をつく展開で面白かった。
個人的にはこの映画で一番好きなのは後半の戦闘シーンではなく、志村喬が登場して侍を集めてゆくところ。片山五郎兵衛の稲葉義男、七郎次の加東大介、林田平八の千秋実の登場の仕方、それぞれ実に巧みで魅力的である。
菊千代の三船敏郎は、当初予定になかったのを、侍たちと百姓をつなぐ役目がどうしても必要だということで新たに設定されたそうだ。言うまでもなく三船の魅力が最高に発揮された当たり役である。
三船らしい名演技の連続だが、火事のシーンで赤ん坊をかかえて「こいつはオレだっ、オレもこの通りだったんだ」というところは文句なしの名シーン、名演技である。
岡本勝四郎の木村功の純粋無垢ぶりも本当に印象的だった。志村に子供扱いされていたところを同行を許されたところの喜びようの表情、宮口が敵をやっつけて帰ってきたところに「あなたは素晴らしい人です」という時の目の輝きと表情は忘れられない。そして宮口の照れる様子。いかにも黒澤的な演出だった。
志乃の津島恵子は最近亡くなられたばかりた。大変いじらしくてかわいかった。この男くさい事この上ない映画に唯一登場する女性的要素である。
木村功との逢引の際に、二人で横たわって「侍のクセに意気地なし」というシーンは実によかった。あの構図は「野良犬」の犯人逮捕とちょっと似ている。両方とも木村功が出でいた。
もう一人、女優で例外的に大きくクレジットされるのが利吉の女房の島崎雪子。心から絶望している女を演じて本当に見事だった。成瀬巳喜男の「めし」では、わがままで甘えた娘をしていたが、まるで別人である。女優はすごいしこわい。
あの火事のシーンでは利吉の土屋嘉男がミスをしてNGになり、島崎は本当に命さへ危なかったそうである。黒澤もその素晴らしい演技とお詫びの意味をこめて大きくクレジットしたのかもしれない。
ちなみに、あの有名な「侍のテーマ」は、黒澤が音楽の早坂文雄の家に行き、早坂が用意した20通り以上の曲を次々にピアノで弾いたが、黒澤はどれも気に入らなかった。
途方にくれた早坂が、ゴミのようにほうっておいた楽譜を拾い上げてそれを弾いてみたら、黒澤が「これだっ」と叫んだそうである。
よく出来すぎたエピソードだけれども、ほんとんど狂気のような本気で映画制作にあたっていた黒澤を象徴する話だと思う。
posted by rukert | 映画
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。