2011年02月14日

成瀬巳喜男 「秀子の車掌さん」感想

高峰秀子の成瀬映画デビュー作。当時17歳くらい。1941年の作品。
高峰秀子が実家近くでバスを止めて、田んぼの中を走って家へ向かうシーンが素晴らしい。成瀬映画ではこういう自然の中の移動シーンのつなぎや組み立てで感心することが多い。「まごころ」「 妻よ薔薇のやうに」など。それにしても当時の自然がとても美しく感じられる。
藤原鶏太(戦時中で当局から藤原釜足に文句をつけられて改名中)の珍しい主役映画でもある。やはり、さりげないとぼけた感じでいい味出している。高峰に「小説家(夏川大二郎)はフランス映画の「にんじん」に似ていると言うが、私はごぼうだと思う」といわれたりしている。勿論役のバス運転手として言われるのだが、藤原釜足本人が言われているようでおかしい。
高峰秀子が初々しい。但し、年齢のわりにはやはり堂々としてうまいのだけれども。個人的には、「浮雲」以降の「女優」高峰よりも、この作品や木下恵介の「カルメン故郷に帰る」のようなタイプの高峰が好きだ。
夏川大二郎も原作の井伏鱒二とおぼしき作家のマジメな役のようでいて、バスガイドの声色で延々とバスガイド原稿を読んだり、うるさい蝉を追っ払おうとして水をかけて下を通る夫人にかかってしまって恐縮したり、なかなかのコメディアンぶりである。
それと社長役の勝見庸太郎がすごい役者で怪演していて笑わせる。やたらとラムネと氷が好きで。ラムネをあける音の爽快感がたまらないとか、ちょっと洒落た台詞をいうが、これは井伏鱒二原作の通りなのかしら。
非常に牧歌的なコメディだけれりども、バスから映す風景の映画的な感覚、各キャラクターのうまく練られた個性があって完成度は高い作品だ。軽い小品だけれどもレベルは決して低くない。いや、高い。
それと、そもそも私は個人的にこの時期の成瀬作品が、どれもこれも好きで仕方ないのだ。
しかし、コメディとは言ってもラストのオチは素直でない成瀬らしいセンスで素晴らしいし、何も知らずに最初で最後のバスガイドを嬉しそうにする高峰と藤原の姿で終わるのも、映画らしくうまく完結していると思う。

posted by rukert | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画
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