2011年02月11日

成瀬巳喜男「まごころ」感想

これは、なんとも可憐で美しい映画だ。
1939年。とにかく、対照的な個性の二人の少女がかわいい。自分の母親が、かつて相手の子の父親と好きあっていたと聞かされ、泣き出すと、もうひとりもつられた泣き出す。二人とも同方向を向いて長椅子に離れて座る構図がよい。さらに、二人で、もしお互いの父親と母親が結婚していたら、二人の中間のような子が生まれただろうと「おかしいわね」と近距離で向かい合って言うかわいらしさ。
入江たか子かあさんが、優しくて美しい。原や高峰よりさらにひとつ時代が前の女優なのだが、そのちょっと古風な美しさがよい。入江かあさんと娘が食事をするところを、庭の木々越しに映すシーンはなんともメルヘンティックだ。
入江と娘が、川にまで向かう途中の映像のつなぎ方も、成瀬組らしくスムーズで見事。「妻よ薔薇のやうに」でも千葉が九州で父親やその息子と道中を歩く場面があったが、それもとても巧みだった。成瀬お得意のシーンである。それにしても、ここでの自然の美しさには息を呑む。映し方が上手なのか、やはり今とは異なる自然が残っていたのか。
川のシーンの広々とした開放感も心地よい。怪我をした娘を介抱するために、入江たか子と高田稔が再会するのだが、多くの余会話を交わさなくても、二人の動きや視線で二人の関係が全て伝わってくる成瀬演出。そして、それを黙って見つめる二人の娘たち。彼女たちも、恐らく我々同様に全てを理解するのだ。
母親を悲しませた娘が入江を励ますために一生懸命肩をたたいた後、。入江が何ともいえない目つきで娘をじっと見る。娘のけなげな気持を察しているのが分かるように。実に成瀬映画的である。
古きよき時代を、美しい自然や風景や当時の建物を存分に織り込み、人物の心情も成瀬らしく繊細に描き出した実にかわいらしい佳品である。
最後に、村瀬幸子が急に改心するのが普通のストーリーなら唐突だが、夫の召集令状という事実の重みがあるので不自然ではない。戦時映画だが、それもうまく用いていると思う。
この時期の成瀬映画はどれもこれも素晴らしいが、特に気持のいい観後感の残る作品である。
posted by rukert | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画
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