2011年01月22日

成瀬巳喜男「流れる」感想



昨日「浮雲」について書いたのだか、読み返すとうまく言いたいことが言えていない。暗くて救いのない映画だけれども、それを徹底的に突き放す成瀬演出が効果をあげ、森と高峰の迫真の演技もあり、圧倒的な感銘を残す作品になっていると言いたかっただけだ。成瀬的日本的な感覚について、つべこべ言っているのはあくまで付け足しである。
それと大切なことを言い忘れた。高峰秀子が昨年末に亡くなって、すぐ「浮雲」を見たいと思ったのだが、手元になくてやっとみれたというわけである。
さて、その高峰もでている「流れる」。「浮雲」のような強烈さはないけれども、成瀬らしい傑作ということでは、むしろこちらをあげる人が多いのではないだろうか。
花街の人間模様をきめ細かく優しく、そして時には残酷に描いた成瀬らしい作品である。当然女性が中心の映画で、男性は宮口精二が、田舎者の粗野なオヤジを好演、怪演している以外は、本当に脇で加東大介や中村伸郎が顔見せ程度に出てくるくらいだ。
そしてオールスターキャストの女性陣がみな素晴らしい。溝口健二の「赤線地帯」もオールスターキャストで遊郭を描いて、とても面白い映画で、溝口特有のアクの強さが魅力的だったが、こちらはあくまで成瀬的で自然で繊細な描き方だ。二人の巨匠の個性がよく出ている。
それにしてもどの女優も魅力的だ。
田中絹代は苦労人でしっかりもので礼儀正しくて慎ましくて優しくて、これでは全く天使ではないか。いつも、なんだか忙しそうにキビキビ働きまわっているのだ。演出上ノンビリした動きをすることをこの映画では許されていない。
山田五十鈴は、年増だが十分に美しくて、芸が確かで、性格も大らかで優しいが、本質的には芸者向きではない。零落していく芸者屋の主人公にふさわしい。ラスト近くで、売り払われるのも知らずに三味線を優雅に弾くシーンが泣ける。
その山田を親身になって世話をする栗島すみ子。大御所がこの映画のために復帰したらしいが、その貫禄と品格がすごくて、表現は悪いがいかにも女ボスという感じだ。そして、最後にずっと親身に世話をしていた山田五十鈴たちを追い出して小料理屋を開こうという田中に打ち明けるシーンがすごい。それをサラッと言ってのけるのだ。成瀬的な世界という感じがする。そして、田中絹代はさの小料理屋にスカウトされてしまうのだが、丁寧にしかしキッパリ断りをいれる。世話になっている山田五十鈴への筋を通したのだが、この映画での田中絹代はイメージアップしすぎである。また、そういう役が何の違和感もなく似合うのだ。
高峰秀子は、花柳界になじめない生真面目ですこし気が強い娘役。でも、母親の山田五十鈴をこよなく愛している。「浮雲」よりも、この役の方が似合っているような気がする。というか「浮雲」の世界は誰がやっても難しいし、本来は高峰秀子に似合わない役なのかもしれないが、本当になりきってぃた。森もそうで多分本来のキャラクターちとは異なる役で、二人とも大したものなのである。
中北千枝子は、山田五十鈴の妹で、だらしない怠け者の役。これも、はまっている。娘が中村伸郎の医師に注射をされる際に、自分の子供なのに抑えないで目をつぶってしまうだらしなさ。こういう演出もうまい。そして、ここでも田中絹代が娘を優しく説得し寄り添って寝てしっかりおさえるのだ。もう、かっこよすぎである。
そういえば、栗島すみ子が田中絹代に大金を預けるシーンで、もしかして金が盗まれて田中絹代が大変な事になるのではないかと心配になった。普通、そう考えますよね。でも、何事もなくしっかり山田五十鈴に渡す。ここら辺も、多分ちょっとした肩透かしを狙った演出なのではないだろうか。
岡田茉莉子は若くて元気な芸者役でこれもはまっている。
そして、杉村春子が特に後半に大活躍。酔って夜中に岡田茉莉子と踊って、それを子供の娘が澄んだ目でみつめるところなど、何となく切ないいいシーンだ。こういう、ちょっとした繊細な演出が成瀬は本当にうまい。
そして、男に捨てられて酔って山田五十鈴に給金のことで絡み、高峰秀子に「男を知っていることがどうして自慢になるの」と叱責されて、「女に男が要らないだって」と酔って笑いながら捨て台詞するところは掛け値なしに名シーンだ。杉村春子以外には無理だろうと思う。
ダラダラと内容の説明を続けてしまったが、そういう細かいさりげない名シーンの連続なのである。そして、根底には没落する花街へのあたたかい視線と無常感が漂っていて、何ともいい映画だ。
女性を描かせたら他の追随を許さないとされる成瀬の本領が発揮された名品である。こうして書いていると、成瀬映画の女というのは、男性がこうあってほしいという理想の女だという気もする。私も男なのでそれはよく分かる。もっとも、女性が成瀬映画を見てどう思うかは別なのではないかとも思った。すごく女性らしい女性たちだけれど゜も、現実の女性とは違うのかもしれない。でも、そういう男性が勝手に思い描く女性というのは、幻想かもしれないが、きわめてリアルな存在である。きっと映画とは、そういうものだろう。


posted by rukert | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画
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