2009年02月25日

ショスタコーヴィチ交響曲第七番十五番

ショスタコーヴィチ交響曲第七番ロジェストヴェンスキー十五番ムラヴィンスキー

ショスタコーヴィチ交響曲第七番「レニングラード」(ロジェストヴェンスキー=ソビエト国立文化省so.)

この第七番は独ソ戦に対する愛国心の表現として書かれたということになっていたが、ヴォルコフの「ショスタコーヴィチの証言」によると全く違う意味が込められていたという。
(この曲は)戦争の始まるずっと前に構想され、従ってヒットラーの攻撃に対する反応ではなく、「侵略の主題」は実際の侵略とは全く関係ない。この主題を作曲したとき、私は人間性に対する別の敵のことを考えていた。ヒットラーにより殺された人々に劣らずスターリンの虐政の犠牲となった何百万という人々の悲運を悼んで書いた。
ショスタコーヴィチの曲には、常に付きまとってくる隠されたテーマの問題が、一番分かりやすい形で現れている。
個人的には第一楽章で、「戦争の主題」が、ラヴェルのボレロのように繰り返して展開されて膨大な管弦楽に膨れ上がっていくところが好きである。あの「戦争のテーマ」は、その名前とは反して軽妙な魅力的なメロディーである。かといって、迫抜けに楽天的というのではなく、何かそこに隠された意味が秘められているような不思議な味わいがある。それは、ショスタコーヴィチの曲全てについて言えることだが。
タルコフスキーの「映像のポエジア」によると、魅力的なイメージというのは、一律的な意味がすぐ分かるようなものでなく、相反するイメージが共存して解釈不能ながら豊穣な内容を含んでいるものだという。ショスタコーヴィチの曲は、まさしくそういうものである。
この曲についても、スターリンへの抗議がこめられているとしても、そういう具体的意味を超越したイメージの力がなにより魅力である。ショスタコーヴィチの音楽には、そういう彼にしかない特別な性質があり、聴く者の心を離してやまないのである。それはあくまで純音楽的でありながら、同時に音楽的ではない意味も志向していながら、言葉の意味には堕さない緊張感を保っている。そういう類のない音楽である。
第七番は、大音響の巨大な壁画で、純音楽的な精緻さに欠けると評されることもあるが、そういうショスタコーヴィチ的な魅力は十分な曲だと思う。先述したように第一楽章のボレロ的な部分の不思議な味わい。
ロジェストヴェンスキーとソビエト国立文化省so.のコンビは、こういう巨大な音響を表現するのに最適のコンビである。ロジェストヴェンスキーは、何をやっても出て来る音が楽天的で、人間としての性質では常に深刻なショスタコーヴィチとは対照的ともいえる。しかし、あの精緻かつ膨大なスコアを余すことなく再現する能力ではずば抜けており、なおかつやはり「ロシア」のオケというのが、やはりきいている。個人の性質とは関係ない、深い民族的な共通性を感じずにはいられない。特に、巨大な音塊の部分は、ロシアのオケじゃないと決して出ない味わいがあると思う。
昔に輸入盤で、全ての交響曲を揃えたのだが、現在は入手が難しいようである。

ショスタコーヴィチ交響曲第十五番(ムラヴィンスキー=レニングラードフィル)

ショスタコーヴィチの最後の交響曲。ウィリアム・テルやワーグナーのリングを引用したりする不思議な曲である。ショスタコーヴィチの人生の回顧とも言われる。しかし、この曲についても、やはり相反するイメージが統合されて同時に矛盾しながら並存しているイメージということが言える。ある意味、ショスタコーヴィチのもっとも私的な意味合いが込められていながら、逆に最も普遍的なイメージを放射しているといえるかもしれない。個人的にも、一番好きな曲である。
たとえば、ワーグナーの引用にしても、曲想をそのまま生かしながら、それをどこか客観視して異化するような面があり、軽やかでいて深刻、真面目なようでいてどこかユーモラス、浅いようで深い、気軽なようで深遠という曲なのである。こうして言葉で説明するのが一番難しい曲である。
ムラヴィンスキー=レニングラードフィルは、この曲の構造を極端なくらい精緻にレントゲンのように再現する。しかも、それをすこしも機械的でなく、あくまで人間の芸術的な手作業として行うのである。きわめて硬質で甘いところが微塵もないのだが、決して音楽が死なずに微妙なニュアンスが常に息づいている。集中して耳を傾けていると、その完璧な演奏への意志に興奮せずにはいられない。
そして、なによりあの打楽器群によるラスト。人間が書いたもっとも美しい音楽の一つだと思う。
しかも、その打楽器群のパターンが、自らの第四交響曲からの引用なのだ!
posted by rukert | Comment(0) | TrackBack(0) | クラシック
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