2012年09月14日

黒澤明「野良犬」



黒澤初期の刑事ものだが、結構過激な演出も目立つ。「生きる」のことを書いた際にも紹介したがマルセ太郎の言うように、あまりに真面目で真剣すぎでかえって笑ってしまうところがある。
淡路惠子が、木村功に貰った服を三船敏郎に着てみろといわれて、意地になって着てクルクル回りながら「楽しいわ、楽しいわ」という。背景では稲妻がとどろいている。
このシーンは、初めてみた時にも笑ってしまった。あまりにも表現主義的すぎるのだ。でも、決してバカにしているのではない。この時期の黒澤映画のエネルギーはあまりにも過剰なので、それが笑いに転じてしまうのだ。この時期の黒澤映画の愛すべきところである。
ラストの三船が木村を追跡して格闘するシーンも劇的なつくりである。朝靄の中を二人が草むらの中を走るところは素晴らしい。何となくだが、ワイダの「灰とダイヤモンド」を連想してしまった。
但し、そのバックでピアノの平和な音楽を流したり登校する子供達がのどかに合唱するのは、画面の緊迫と対比する黒澤流の「対位法」だそうだが、これもちょっとわざとらしくて笑ってしまう。
逮捕された木村功が号泣するところも大変激しいシーンである。基本的には、私はこういう黒澤流の演出が好きなのだ。真面目な顔して見ないでニヤニヤしながらも感動して見ている。
ここでの三船は、いかにも三船らしい役柄でピッタリはまっている。志村喬は老練で人間味のある刑事で、いつものように見事になりきっている。後年のテレビの刑事ものベテランデカの原型である。
それと、この映画はちょっとしたキャラクターやシーンも、実によく練って丁寧に撮られていて黒澤流のこだわりがこの映画あたりから本格的に出てきていると思う。そのせいか、端役もすごく印象に残る映画だ。
スリの女の岸輝子と三船の追跡劇と、最後に岸が三船の執念に根をあげて食事とビールをおごるところもなかなかいい。この岸というのもなかなか個性的な顔と雰囲気の女優だ。
千石規子のピストル屋のヒモも、個性にあっていて、特に志村喬とアイスをなめて笑いあうしーんとかよかった。真面目一方の三船刑事と違って志村がいかにも経験豊富な刑事であることが、あの登場シーンで一発で伝わってくる。
千秋實が珍しく色男のようだったり、生方明が女たらしのいやらしいボーイをしたり、清水将夫が被害者の夫の心境を劇的に吐露したり、端役でもちゃんと見せ場が出来ている。他にもあげればキリがないが、有名俳優が次々にチョイ役で登場して、それを見ているだけで楽しい。
淡路景子は、この作品のイメージも強いが、「男はつらいよ 知床慕情」でほぼ40年後に三船敏郎の恋人役として再会する。どちらかというと、女性としては後年の「男はつらいよ」の方が魅力的だったかもしれない。

posted by rukert | 映画
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