2012年09月04日

黒澤明「椿三十郎」



言うまでもなく傑作痛快時代劇。見れば分かる。説明の必要もない。個人的には対になる「用心棒」よりも好きだ。「用心棒」は話自体が殺伐としすぎているが、こちらは随所に上質なユーモアが散りばめられていて楽しい。
まず、オープニングからして素晴らしい。若武者たちが円形に座って話し合つて盛り上がるあの雰囲気の描写が大変映画的。そして、暗闇から三船の椿三十郎がぬっと登場するかっこよさ。何という完璧な演出だろう。
100分弱の映画で完璧なストーリーを盛り込む脚本にも舌を巻く。黒澤自身も脚本を書いているようだが、どの程度関わっているのだろうか。
黒沢映画には、ルーカスやコッポラというハリウッド系の監督が反応しているが、こういう脚本の精緻な巧みさもその要因になっているのだろう。
三船敏郎の役でも、これは大層魅力的である。三船はどの役もごくごく自然に、まるで素のミフネのままなようだが、実は繊細に各役を演じ分けている。キャラクターが強烈すぎるので、どうしてもミフネが表に出るのだが。
ビリー・ホリディが、どんなスタンダード・ナンバーを歌っても、ビリー色に染めてしまうが、実は各歌曲の精髄の本質を見事に表現しているのとも似ている。
加山雄三は、「赤ひげ」と共に、まだ「加山雄三」になりきっていない加山雄三で若者の素直さ、爽やかさが直截的に表現できていて素晴らしい。
こいそ役の樋口年子、「隠し砦の三悪人」でオーディションで登場したが、ここではセリフを結構セリフを喋っている。
奥方役で、入江たか子が登場するが、例えば黒沢だと「一番美しく」から約二十年経過している訳だが若き日の典型的な美女と比べて、そのあまりの変わりようにちょっとショックを受ける。女優という仕事の難しいところだ。
団令子は、おっとりとしたお嬢さん役。「赤ひげ」でも清純な役で、同じ役者に対極の役をやらせたがる黒澤にしては珍しい。成瀬や小津では、変わった女を怪演したいいキャラクターなのに。
三船が、入江の踏み台になるシーンもおかしい。ミフネの顔のしかめ方。入江が本当に重たそうなだけに・・。
志村喬が脇の悪役で、しかも脇の脇。ちょっと寂しい。現代の感覚だとまだ当時全然若いと思うのだが。
なんと言っても、この映画で一番おいしいのは小林桂樹である。入江の人柄にうたれて逃げ出すのを自分から断念し、押入れの中で本当の事実を知り、ついには若武者たちの幼稚さに耐えられず、押入れから飛び出してきて人生の先輩の意見を決然と述べてから押入れに戻るおかしさ、そしてうまく計略が行って押入れから出てきて新たな仲間たちと喜んでから我に返るシーンは実に出来のいいコメディである。
そもそも、黒澤がこの作品の元になる脚本では、小林桂樹などが主役候補だったらしい。
入江と団が合図のつばきを赤にするか白にするかをのんびり話し合うところで、三船がイライラしてのの字を書くところも抜群におかしい。
城代家老の伊藤雄之助は、言われないと分からないくらい馬面メイクだ。確かに顔は長いけれど。「生きる」の無頼派作家とは全く違うタイプの役で、黒澤が好むパターンだ。
ラストの、三船と仲代達矢の決闘シーン、最初観たときはショックを受けた。あの血の吹き出し方。最近は、あれはジュースだと思って見るようにしている。そうでないと、今でもちょっとこわいくらいのシーンなので。

それと、この映画のセリフのセンスが秀逸である。現代だと「天空の城ラピュタ」の名セリフが話題になったりするが、全くそれにも劣らないと思う。以下、それらを幾つか紹介して終わりにしよう。

「するとニヤニヤ笑って、おいっ、オレがその汚職の黒幕かもしれないぞ。お前たちは、このオレを少しうすのろと思って案山子がわりに担ぎだすつもりらしいが、人は見かけによらないよ。あぶないあぶない。一番悪い奴はとんでもないところにいる。あぶない、あぶない。」

「盗み聞きって言う奴は、いいもんだぜ。岡目八目、話している奴より話の本筋がよくわかる。」

「なかなか聞き分けがいいな。いいこだ。」

「こうなったら死ぬも生きるも我々九人。」「十人だっ。てめえらのやることは危なくて見ちゃいられねぇや。」

「ちぇっ、こう金魚のウンコみたくつながってこられちゃ始末がわりぃな。」

「いい侍だ。ふっ、おめぇたちより頼もしいぜ。」

「おめぇ、丑年の生まれか?何かというとつっかかるが。」

「なんだ、その面ぁ。刀振り回してぇんだろうが、御免だぜ。間抜けな味方の刀は敵の刀よりあぶねぇ。けつ斬られちゃ、かなわねぇからなっ。」

「あなたは、ちょっとギラギラしすぎていますね。抜き身みたいに。あなたは鞘のない刀みたいな人。よ−く斬れます。でも、本当にいい刀は鞘に入っているものですよ。」

「あの奥方のなさることはマッタク天衣無縫だな。」「ちぇっ、少し足りねえのさ。」

「しかし、アイツ何をやりだすか分からんっ。化けもんだぜ、ありゃあ。」

「それはねぇ、誰かもおっしゃったようですが、あの人の変なクセです。あの人は褒めたい時でも悪口しか言えない人なんですよっ。」「それみろ・・。」

「わからねぇのか。こいつら助けるのよ。」

「はっ、のどかなもんだっ。この調子じゃ、城代の居所を見つけるころにゃあ、おらぁ白髪の七十郎だぜ、おいっ。」

(流れてきた椿を見て入江)「まぁ、きれいだこと。」

「ざまぁみやがれ。うまくひっかかりやがった。椿の合図は赤も白もねぇんだ。」

「おまえらが謝ることないよ。わしに人望がなかったのがいかんのだ。どうもなぁ、わしのこの間延びした馬面にも困ったもんだ。昔の事だが、わしが馬に乗ったのを見て誰かこんな事言いおったよ。乗った人より馬は丸顔。」

「こいつはオレにソックリだ。抜き身だ。こいつもオレも鞘入ってない刀だ。でもなっ、あの奥方の言ったとおり、本当にいい刀は鞘に入っている。おいっ、おめぇたちも大人しく鞘にはいってろよ。」

ラストで「用心棒」同様、三船はお得意の肩をゆするポーズをして後姿で去ってゆく。実は「赤ひげ」でもそうなのだ。


posted by rukert | 映画
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