2012年09月03日

黒澤明「隠し砦の三悪人」



大好きな黒澤作品。何といっても、上原美佐の雪姫である。理窟抜きの存在感、凛々しさ、健康的な色気、心の美しさ、はかなさ。と役者と役柄を混交して述べてしまったが、この上原雪姫は演技のレベルなど軽く超えて役柄と本人が一体化してしまっているのである。
そもそも、この上原美佐は、素人だったところを東宝社員の目にとまり、黒澤が上原の「気品と野生の二つの要素がかもしだす異様な雰囲気」を評価してデビューに至ったそうである。(上原のウィキペディアによる。)
三船敏郎も、オーディションに来ていたところをその異常な迫力にうたれた黒澤の要望で補欠合格した経緯があってよく似ている。二人とも理窟抜きの尋常ではない迫力あるオーラの持ち主で、こういう役者が黒澤の好みなのだろう。
上原はこの後数年して「自分には才能がない」として(あるいは家庭の事情とも言われる)、あっさり引退してしまう。従ってかえってこの上原雪姫が一期一会のスクリーン上の奇跡として我々の記憶に残る事になった。
上原は、山の中では現代風に言うと短パン姿で通して、三好栄子言うところの「猛々しい」姫であるにしても、いくらなんでも世継ぎの姫にこんな格好をさせるのは時代考証以前に無理な設定である。でも、黒澤はこういう野性的な姫を創造したくて、ぬけぬけとこういう格好をさせた。我々は「黒澤えらい」と叫ばずにはいられない。
雪姫のシーンはもう全部印象的だ。山の上に遠望で屹立する姿の凛々しさ、三船をなじった後で少女のように大泣きする泣きっぷりのよさ、三船のおしにするという計略を見抜いた際の何ともいえない笑顔、三船が関所で大暴れするところを見つめる笑顔、最後の番で歌うシーン、姫に戻って三船の男ぶりを褒めて三船が照れるシーン等々。語りだしたらキリがない。
マルセ太郎のように「スクリーンのないブログ映画館」と題して、逐一語ってもいいのだが、読者諸賢に迷惑だと思うのでやめておこう。
しかし、その中でも忘れがたいのは、火祭りのシーンだ。土俗的なエネルギーの発露の画面全体が圧倒的で素晴らしいのだが、その中で上原美佐雪姫が踊る姿は本当に女王の気品と凛々しさが現れていた。三船なども一緒に映っているわけだが、上原一人に目が釘付けになるのである。
全体の上原の鋭いまなざしが特に印象に残る。しかし、結局あのちょっと上滑りする様な喋り方、身体全体から醸し出すオーラの説得力が文句なしである。この上原を見て「演技になっていない、うまくない」とか言うのはバカげている。こういう狭義の「演技」など軽く超越している存在こそ本来映画が夢見るものであるはずだ。
三船も、ここでは上原に負けずに露出の多い衣装で肉体美を誇示している。相変わらず文句のつけようがない。ちなみに、馬に乗って敵兵を追いかけるシーンではスタントを使ってないそうである。改めてみるとすごいスピードである。一体どんな肉体能力の持ち主だったのだろう。
三船のライバル役の藤田進も素晴らしい出来だ。「姿三四郎」「わが青春に悔なし」など初期黒澤で主役(級)をはり、その後も脇役でも常連だがこの時期では最も印象的な役だ。
この人は、大らかな人柄と、引き込まれるような人の良さのようなものが人間本質の部分で自然に表出されてくるところが魅力だ。三船との決闘で負けを潔く認めるところ、味方を裏切る前に歌いだすところ、雪姫の言葉に嬉しそうにうなずくところ、雪姫が鎧姿の三船を褒めて三船が照れたところに呵呵大笑するところ、どれも本当に平家物語に登場する武将のようだ。そういう時代離れした不思議に人間の大きさを感じさせる役者である。「裏切りごめん」の決め台詞が何とも爽快である。
娘役の樋口年子も印象的。本作にあたってオーディションで抜擢されたらしい。それだけに、小細工なしの体当たり的な演技が新鮮である。
そう言えばこの娘を買った上田吉二郎のアクの強さもさすがだった。雪姫の寝姿にムラムラとした二人を石をもって脅すシーンは何ともおかしい。その際、藤原釜足よりも千秋実
の方がスケベオヤジっぽさがでていて素晴らしかった。どうでもいいことだが。
また、敵中に犠牲となって飛び込むシーン、捕えられて「私が姫です、姫です」と叫ぶシーン。いや、別に演技しているのではないのだが、こういう無私の奉公ぶりにどうも我々日本人は弱い気がする。いいことかどうかは分からないが・・。
ちなみに、この樋口年子は「椿三十郎」にもチラッと登場する。
そして、千秋実と藤原釜足のでこぼこコンビについては今更何も言うべき事はないだろう。この時期の日本映画を支えた名脇役二人が思う存分やりきっている。素人系の役者が多い映画だが、―ある意味黒澤映画の三船というのもいい意味で永遠の素人だったような気がする―、この二人は紛うことなき玄人の役者である。
この二人の元に夜に野宿しているところに三船が訪れるシーンが何ともおかしくて好きだ。
千秋「おいっ」。三船が凄い目をして振り返る。千秋ひるんで小声で「こんばんはっ。」藤原何をやっているんだと、「おいっ。」三船がやはり凄い目をして振り返る。藤原とぼけて、「山は冷えるなぁ」。
こんな完璧なコントは中々作ろうと思ってもつくれるものではない。
この作品を元にルーカスが「スター・ウォーズ」をつくったのは有名な話だが、冒頭の佐藤勝の音楽も、ジョン・ウィリアムスのあのテーマと似ていなくもない。そこまで参考にしたのかと今回思った。
そして、「隠し砦の三悪人」というタイトルだけれども、三人とも実は全然悪人ではないというタイトルオチの映画でもある。
posted by rukert | 映画
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