2012年09月02日

黒澤明「素晴らしき日曜日」



黒澤初期のなかなか可憐な佳作である。黒澤にしては、あまりにも重くなりすぎたりはしていない。
ウィキペディアによると、当時東宝争議のせいで藤田進、原節子などが退社していて、新人を起用したそうである。
中北千枝子は個性の強い脇役として黒澤、成瀬、小津映画にも頻繁に登場しているが、ここでは若き日の初々しい主役。ふっくらして健康的でかわいらしい。いかにも性格が良さそうで、この映画の設定にピッタリである。
沼崎勲も、なかなか個性のある役者さんだが、この後37歳で急逝したそうである。
戦後間もない東京を舞台に、二人の日曜のデートがテンポよく綴られていき、どのシーンも印象に残る。特に子供たちと沼崎が野球をするシーンは、当時の子供たちがアップなどて映し出されるが、皆かわいらしくて時代を感じさせる。
こんな小品でも、ダンスホールのシーンでは支配人に清水将夫、与太者に渡辺篤、中北が道を聞く相手に菅井一郎などがチョイ役で登場している。
浮浪児役の水谷史朗という子役の顔つきやその醸し出す雰囲気が何とも印象的で忘れがたい。当時は、本当にこんな子もいたのだろうか。
後半に二人が沼崎の部屋で喧嘩するシーンは、怒って去ったいった中北が忘れて置いていったバッグについているアクセサリーの小動物が効果的で、長い間があって中北が戻ってきて意を決して服を脱ごうとして、それを動揺して見守る沼崎、泣き出してしまう中北の二人をバックから映し続けてるところはなかなかよかった。
そして、音楽堂で沼崎が一人でエア指揮をしようとする場面。当然、中北がカメラに向けて観客に話しかけて、拍手を求める。ゴダールの「勝手にしやがれ」でもジャン・ポール・ベルモントが一瞬カメラに話す有名なシーンがあったが、ここでは中北は滔々とカメラに向かって語り続けるのである。
WOWOWの解説によると、日本ではこの演出はあまり受け入れられなかったが、この映画をフランスで上映した際には、観客から熱い拍手がわきおこって黒澤は感動したそうである。
そして、このシーンは本当に十分に時間と間を使って長い。まるで、タルコフスキーの「ノスタルジア」で主人公がろうそくの火をつけたまま池を横切ろうとするところのようだ。
恐らく、一般的な現代人からすると、かなりこの部分の演出は悠長、冗長に感じるのではないだろうか。また、中北がカメラに向かって熱く語りかけるのも、ちょっと照れくさい。多分普通の日本人はそうだ。フランス人じゃないんだから。私もどちらかというとそういう感じ方だ。
しかしながら、この屋外演奏堂のシーンに、このように大掛かりで長い映画のコーダを持ってこようとしたのが実に黒澤らしいような気がする。
映画の性質からすると、もっと軽く終わらせた方が首尾一貫しているのかもしれないが、いい意味でも悪い意味でもこれが黒澤映画なのだ。
そして、私も実はちょっと照れながらもこのシーンが好きなのである。
posted by rukert | 映画
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。