2011年02月22日

山田洋次監督「男はつらいよ 寅次郎恋歌」第八作メモ



まだ「寅の夢」は出ず。意外に後まで出てこなかったんだな。その代わりに何度もシリーズに登場する旅役者一座が冒頭とラストに登場。柴又から離れて旅する寅と同種の人たちとの交流が最初と最後にすえられて、寅の本質的なあり方が象徴されて、映画に深みを与える。

座長の吉田義夫がなんとも個性的で、「寅の夢」で海賊船の船長をしていたのが印象的。一座の娘の岡本茉利も、いかにも純真で素直な感じで心に残る。彼女も、シリーズ中色々な端役で登場する。

オープニングで寅が江戸川沿いで騒動をひきおこすパターンが始まる。

さくらさんが登場。相変らずミニ時代だが、足ほそっ。そして、二代目諏訪満男?の中村はやと登場。おいちゃんの森川信が、この作品の後に亡くなるのと入れ替わりになってしまった。

寅を迎えようとして、おいちゃんたちが下手な大芝居を打って寅を怒らせる。寅は、ものすごく感じやすくて基本的に被害妄想気味なのだ。しかし、こんな芝居が出来るのはやっぱり初代おいちゃんだけだった。

おいちゃんの、「さくら、まらくだしてくれ」を、寅にパクられるシーンがある。

さくらさんが、寅の仲間の前で泣いて「かあさんが・・」を歌うシーンは、「男はつらいよ」では珍しくあんまり好きじゃない。倍賞千恵子の美声を聞けるけど、あんなことしたら寅の仲間の谷村昌彦たちがかわいそうじゃないですか。さくらさんらしくないじゃないですか。

寅が写真ほ写す際に「笑ってー」「泣いてー」というのは、あれは渥美清だから笑えるんだな。

博が、父親や兄たちの前で、母親への思いを激白するシーンはいい。そして、兄たちが冷たくて末っ子の博が、本当に母思いなのは小津の「戸田家の兄妹」とちょっと似ている。

おばちゃんが「ひろしさんは、お母さんが好きだったんだねぇ」と言うのが印象的。それを打ておいちゃんも、「お父さん、気の毒な気がするなぁ」というのもいい。寅がりんどうの花の話をするシーンでは、おいちゃん夫婦はボケ役をさせられるが、実は二人ともちゃんとよく分かっているのだ(笑)。

寅が志村喬に買い物に行かせて、酒まで買いに行かせようとするところは笑える。志村喬が買い物籠を持つシーンも珍しいだろうし。でも、そういう気を遣わせないところが志村父も気に入って一人で寂しいところを助かっていると。まだ小津映画で言うと、「東京物語」の原節子の役を渥美清がやっているのだ。

志村喬の「りんどう話」に打たれて、寅が書置きを残して去るが、そこにりんどうが一輪そえられているのがイキ。

池内淳子にあって御前様が振り返る煩悩シーン、他にもこのパターンあって、御前様が「いかんいかん」とか言うのがあった。誰がマドンナだっけ。そして、池内淳子を見たおいちゃんも、寅さんのマドンナ初見シーンとおんなじようになる。この二人は色々競い合うライバルであった。

ついに、寅にマドンナをひきあわすまいと家族たちが画策するパターンに。さくらさんまで一緒になって画策にのっているのがひどいし、おかしい。

寅に言わすと喫茶店は「きっちゃてん」なのだ。コーヒーも「こーしー」だし。

寅がりんどうの話をして、それが博が解説するというおなじみのパターンが多分初めて出てくる。

鐘の音が効果的に使われていておかしい。そして、さくらさんを勘違いするシーンでは騙された。前見たときも騙されたが忘れていた。

寅がマドンナ相手に、ちゃんと喋れなく演技は絶妙。

寅は人妻は愛さない。ということで、寅の部屋に下手な時で「反省」「忍耐」「色即是空」と書かれているのだ。細かいところまでネタが行き届いている。

池内淳子が未亡人だと分かるところで、全員の後姿が映し出され、おばちゃんが脱力して座り込むところ絶妙。たっぷり間をとった演出。寅がゆっくり振り返って、さくらが見せる「困っちゃったなぅあ」の表情も絶品。

おいちゃんとタコ社長が噂話をしていると心に疚しいところがあるので被害妄想する寅のおなじみのパターンはやっぱり笑える。

寅とおいちゃんが、馬鹿馬鹿しいケンカほ続けるが、こういうのは森川信にしか出来ない。本当に八作だけだったのが惜しい。

寅が江戸川の土手で寝そべるシーン。子供たちに給食のコッペパンをもらって食べるシーン。どちらも美しい。

志村喬の大学の専攻はインドの古代哲学とメモ。

さすがのおいちゃんも志村喬には苦戦する。「どこのバカにりんどうの話を吹き込まれた」と分かりやすくボケるのも森川おいちゃんならでは。そして、寅が思いきり懐に入り込んでくるところがいい。満にばぁと無愛想に行って笑わせ、博も嬉しそうなところは、ちょっと泣かせる。

寅と池内淳子の最後のシーンは、「男はつらいよ」史上でもなかなかすごいシーンだ。りんどうを寅がプレゼントして、「りんどうの花って月によくうつるのよ」とキメ細かいせりふが入る。
寅が「あなたのためには腕の一本でも」とかっこよくいい、池内も女として感涙する。寅の一世一代のセリフである。
しかし、話が寅の旅の話になり、池内が足袋の暮らしにあこがれるとロマンティックにいうのに、寅が微妙な表情を見せて、池内が自分の生活の実態が分からない別の世界の人間だなというニュアンスを出すところがいい。池内が、旅の暮らしへの憧れを語れば語るほど、寅が悲しい表情をして、二人のすれ違い感じてしまう、実に繊細なシーンである。「男はつらいよ」では珍しい。そして、寅は黙って去る。
つまり、自分から黙って身をひくのであって、は寅はマドンナに振られて失恋するのではないのだ。



posted by rukert | Comment(0) | TrackBack(0) | 男はつらいよ
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