2011年02月06日

成瀬巳喜男「歌行燈」感想

戦時中の映画。成瀬映画としては、ちょっと異色な感じなのだけれども、どんどん引き込まれた。文句なく面白い。
泉鏡花の原作で、その独特な世界を映像化しているので当然普段の成瀬的な世界とはちと異なる。
花柳章太郎が宗山が謡うのを絶妙の間合いで合いの手を入れてリズムを崩してうたえなくさせるというのも、活劇調で、面白いと思うかつくりものめいているか感じ方が分かれるところかもしれないが、私などは素直に物語に入り込んで堪能した。そういう話だと思ってしまえばいいのだ。
花柳章太郎が店先で歌って糊口をしのいでいるが、その土地を縄張りにしている男に商売の邪魔だと怒鳴りつけられるが、花柳が歌に聞きほれてしまって、おまえちょっと待ってくれと男の方から和解を申し出るシーン。ちょっと通俗な時代劇的なのだけれども、成瀬の映像の撮り方や演出がうまいので、いいシーンだなと素直に感動できる。
成瀬らしいユーモアも随所に織り込まれている。花柳の父親と叔父の二人は終始一貫漫才コンビだ。また、花柳の目の前に自殺に追い込んだ宗山の幽霊が出てきて急にB級ホラーのようになったと思ったら、それが夢で明るい海辺だったというオチ。あるいは花柳が盲目のあんまに強くもまれて痛いのに、やはり盲目だった宗山のことを考えて、もっとやってくれとヤケ気味に言うシーンなども完全なギャグだ。
そういう、ちょっとほろっとさせたり笑わせたりする名シーン続きの映画なのだが、花柳章太郎と山田五十鈴が森の中で、舞のレッスンをする場面が夢幻的で美しい。溝口の「雨月物語」のようなところもあるが、成瀬的な個性の繊細な映像になっている。映画の内容に関係なく純粋に素晴らしいい場面だ。
山田五十鈴が最後の場面でも舞う。彼女は芸達者で、みごとなのだけれども、何しろ厳しい芸の世界の能がベースなので、さすがに大変だったのではないだろうか。
とにかく、泉鏡花の世界にどっぷり浸って映画的な興奮に身を浸しきった。私がみた成瀬映画の中でも一番好きかもしれない。
戦時中の映画なので、成瀬も余計な政治的の要素のない鏡花の世界で遊んだというところもあるのかもしれない。黒澤が「一番美しく」で戦争中の現実の女性たちを描きながら体制へのひそかな反抗をみせたり、溝口が普段は社会の最底辺の女性を描くある種反体制的な映画をとっていながら「元禄忠臣蔵」で日本的な道徳を賛美するような大真面目な映画をつくったりしてそれぞれの個性があって興味深い。成瀬が非現実的な物語の世界に向かったのも「らしい」気もする。どちらにしても、戦争が映画監督の内面に甚大な影響を及ぼしたのは間違いなく、とても興味深いテーマである。
posted by rukert | Comment(2) | TrackBack(0) | 映画

成瀬巳喜男「夫婦」メモ

1953年。上原謙と原節子が夫婦を演じた「めし」や「山の音」と同系列の作品だが、ここでは奥さん役が杉葉子。彼女は今述べたに作品にも出ていて、独特な存在感を発揮していた。ちよっと不思議な女優で、ものすごいベビーフェイスもできそうだし、とんでもないヒールも似合いそうだ。「山の音」などは善女なのか悪女なのか、よく分からない変った役で面白かった。
ここでは、倦怠期を迎えてはいるが、基本時には明るくてかわいい奥さん役である。多分、こういう味は原節子には出せないだろう。原節子は、日本的な男に頼って甘える女性というのが全然似合わないのだな、とこの「夫婦」を見てふと思った。
三国連太郎が若くてビックリする。また、役柄がコミカルな図々しい若い男なのである。三国が杉に何も言わずに視線を送り、杉も黙ってその意味を了解するシーンは成瀬映画の典型だ。
上原に、妻が好きなんだろといわれ。そうです、でもそれは純粋な憧れなんです、とか大の男の三国がいうところはなんだかバカバカしい。現実にはありえないのだけれども、そういう設定のコメディなのだ。
上原謙は天下の二枚目だけれども、成瀬映画では煮えきれないじれったい夫という役が多い。私もそんなに昔の映画を見ているわけではないので成瀬映画のイメージそのままだ。「残菊」でも情けない男役だったし。そういえば、小津の「宗方姉妹」でもはっきりしない優柔不断な男だった。そういうキャラクターなのか。それでも、どの映画でもそんなに悪い男ではないという印象を残す。不思議な役者だ。
そんなはっきりしない上原が、杉が妊娠した時だけは、きっぱりとおろせと主張するという無理な脚本だ。映画が進むと、夫婦の和解のための伏線だと分かる。全体に脚本は結構テキトーだ。
但し、その夫婦で子供をおろしにいくラストは風が吹きすさぶ成瀬らしい美しいシーンである。
posted by rukert | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画
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