2011年02月04日

成瀬巳喜男「妻よ薔薇のやうに」感想

主役の千葉早智子がとても魅力的。成瀬は女性をきれいに撮る監督だけれども、これもその特徴がよく出た作品だと思う。
千葉がいきなりモダンな洋装で登場するのだが、この時代の洋装には不思議なかっこよさがある。小津の作品の原節子もそうだけれども。しかし、千葉は普段は和服姿である。こちらもよく似合ってきまっている。
そして、役柄上も千葉の演じる君子は、洋装と和装を両方こなすように、伝統的な女性と新時代の両方の境界線にいる女性である。正妻の悦子は、独立心もあり自分の世界をもっていてマイペースだ。和服を着ているが一応は新時代タイプだ。一方、父親の俊作が一緒に逃げたお雪は、男に献身的に尽くして優しい古い伝統的なタイプの女性である。
君子の目を通じて二人が客観的に比較される。実母も勿論普通に愛しているが、お雪のけなげな姿と父親との仲のよさをみて、冷静に父親は彼女がいたほうが幸福かもしれないと考える。
おじさん役の藤原釜足は、「世間」を象徴する存在で、当然そうは考えない。正妻のもとに戻るのが当り前で、妾とさっさと別れるよう強く主張する。ところが、君子は実の娘であるにもかかわらず、とても冷静で客観的な判断をくだすのだ。
俊作は、世間的な落伍者でダメ男なのだが、人間味とやさしさはある。そして俊作が娘の君子に対して「自分はおかあさんが苦手なんだよ」という言葉が全てを説明している。成瀬も、優しいお雪の姿を好意的に、冷淡で心を開かない悦子を否定的に描いている。
それに対して、娘の君子は、母親的な独立心や現代性を持ちながら、お雪的な女性的な優しさも兼ね備えている。両者を止揚する現代性と伝統性を兼ね備える理想的な女性像を成瀬は描きたかったのだろう。君子が、洋装も和服も両方見事に着こなすのはその象徴だろう。
成瀬が描きだした数多い魅力的な女性の中でも、ここでの千葉早智子は素晴らしい。話の深刻な内容に関わらず、とても楽天的な希望に満ちた雰囲気をもつ映画だ。
そして、君子の恋人は、ちょっと頼りないが現代風のよい男だ。父親と、それにはない新時代の要素を兼ね備えている。この二人が結婚して、倦怠期を迎えると「驟雨」の佐野周二と原節子の夫婦になってもおかしくない。
それにしても、成瀬はこの時代にみごとにはまっている。成瀬の場合、映画の出来不出来に関係なく時代を遡れば遡るほど、時代に適合しているので、どの映画も見ていてとても心地よいのだ。
posted by rukert | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画
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